イヌイットは、アラスカ、カナダ北西、グリーンランドの極地に住んでいる。20世紀初頭までは、イヌイットには悪性腫瘍ははとんど存在しないと信じられていたが、平均余命がのびてきて異なるパターンを呈してきた。その変化とは、ウィルスによる鼻咽頭と唾液腺のガンのハイリスク、白人に多いガン(前立腺ガン、精巣ガン、造血系ガン)のローリスクである。
遺伝的・環境的要因が共にこのパターンに関わっている。20世紀の後半、イヌイット社会でライフスタイル、生活状況に大きな変化があった。そして喫煙、食事、性と生殖に関する要因の変化のあと、ライフスタイルに相関する腫瘍、とくに肺ガン、大腸ガン、乳ガンがかなり増加した。
この論文は、イヌイット集団におけるガンの疫学の最近知識を、イヌイットタイプのガンの特性を強調して簡単に要約している。『ランセット』の論文に加えて、イヌイットの食生活の歴史も織り交ぜながら、イヌイットのガンの変遷を見てみましょう。
まず、20世紀初頭までは、生肉・生魚が主食という伝統的食生活が守られており、ガンはかなり少なかったようです。この頃までは約40000年間、小麦など穀物は皆無で、糖質ははとんど摂らない食生活です。まさに民族をあげてスーパー糖質制限食を実践していたわけです。
ウイルスの感染による鼻咽頭と唾液腺のガンが急速に増えました。1910年代にハドソン湾会社などの交易会社がカナダの東部極北地帯に進出し、1920年代に北ケベックの各地に毛皮交易所が設置されました。
食生活も徐々に欧米的なものが入ってきます。「バノック」と呼ばれる無発酵パンが日常食として定着していったのは1920年代と思われます。しかし、1950年頃までは欧米型のガンはまれでした。
欧米との交流が活発になり約30〜40年が経過した1950年代からは、肺ガン・大腸ガン・乳ガンといった欧米型のガンが増えています。
またアルコール、タバコ、麻薬はかつてイヌイット社会にはなかったものですが、急速に浸透していき、人々を苦しめ大きな影を落とすこととなりました。「イヌイットとガン」というテーマに関して、イヌイットにはガンが少ないという説や欧米と変わらないという説が入り乱れていたのですが、『ランセット』の論文のように歴史的に経過を追うと、とてもわかりやすくなります。
ガンの予防対策と増殖抑制作用を高める
https://malignant-tumor.com
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